ユウコ / ヨシュア・カウワー
「ユウコ、今料理してて手が離せないから、悪いけど布団を取り込んでくれないか」
「分かったわヨシュア、今日お布団干したんだったわね」
「…よし、できたぞ。さあゴハンにしよう。あれ?ユウコ?いつまで布団に埋もれてるんだい?」
「うふふ、あたしね。干したお布団って大好きなの。もう少しこうしててもいい?」
「いいけど、ごはん冷めちゃうよ」
「ふふ、あとちょっとだけ。…ああ、太陽の匂い。いい匂い。あたしこの匂い大好き」
「太陽の匂い?それはおかしいな」
「えっ」
「太陽はとても遠いし、宇宙の真空を隔てているから匂いは届かないよ。届くのは各種光線と、それに伴う熱だね。匂いは無い」
「…じゃあこれはなんの匂い」
「そうだね。これは僕の仮説に過ぎないけれど。お布団を干すとダニが死ぬっていうだろう。だからダニの匂いじゃないかな。ダニの死体の。人間も死に方によるけど糞尿を垂れ流したり死体が腐敗したりして匂うだろ。ダニにもそれが起こってもなんら不思議は無い。だから君が好きな匂いはダニの腐乱死体、あるいはダニの糞尿の匂いか、そういった類の匂いじゃないかな。でも気をつけてね。たとえばハチドリだって、花の蜜の匂いを嗅ぐときに鼻の穴にダニが寄生することがある。人間だって、まつげにはデモデクス・フォリキュロラムというニキビダニ、皮脂の脂肪腺にもデモデクス・ブレヴィスという別のニキビダニが… あれ、ユウコ?どこ行ったんだ?ごはんは?」
それがユウコを見た最後でした。
ヨシュア・カウワー著『明日からモテない!生物学入門』 第2章より抜粋

