初夏? / ムロヤ
お題「初夏」
立夏から梅雨入りまでの間を「初夏」と呼ぶようだ。
若葉の芽吹く緑の青い季節。道行く人々が新しい季節の訪れを感じて、「あら、もう新緑の季節ですのね」などと口に手を添えて笑いあう時期を迎え、世間では春の陽気と夏の快活さを合わせた初夏特有のエネルギーをもってしてバカ度と暑苦しさを3割増にされたバカップルと体育会系の人間が猛威を振るい、盛る盛夏に向けて熱を放出していた。
僕にとっても、飛散したスギ花粉がなりを潜めて、残り少ない春を堪能できる貴重な期間なので珍しく外出してみたりして春の終焉と夏の到来を感じるべく公園に繰り出すのだけれど、そこにはやはり何組かのつがいが居て僕の機嫌を損ねるのだ。
そんな中で僕が何をするのかと言うと家から担いできたギターをポロポロと弾くのである。
僕はいくつかのボサノヴァと2つのシャンソンと何曲かのポップスしか弾けずそのほとんどはラブソングであるために、夕方の人気の薄れた公園においてそれらの楽曲を奏でよう物なら、十中八九汚らわしいつがい共の行為を助長することになってしまうのだ。
ある日曜日の夕暮れ、僕がいつものように手賀沼に向かって足を向ける形になるベンチに腰を下ろして、ラ・メールという曲を弾いている時の事であった。「らめぇ……。らめぇぇ!」と連呼するとても恥ずかしいシャンソンであるが、僕は歌わないので全く恥ずかしく無い。
市民図書館の方からふらふらと流れて来た1組のカップルが僕の座ってギターを奏でているのをバックにあろうことかニャンニャンし始めたのである。
女は男の肩に頭をもたれかけて男は女の腰に手をまわしたりなんかして、僕は確実にクソいまいましいつがいのムード作りに貢献していた。曲は既にビルエヴァンスのマイロマンスの半ばに差し掛かっている。
僕は悔しかった。何故僕はこんなところでお金をもらう訳でもなくカップルのバッキングなんてしているのだろう。この時ほど暗い日曜日を歌いたい日はなかっただろう。しかし、悲しいかな。僕は嬉しくもあった。自分の演奏が他人の雰囲気作りに使われるなんて……。
よし、もっとやれ。もっと近づけ。こうなったらとことん弾き倒してやるぜ。まぐわれ!まぐわれ!
じゃぁ、仕方ないな……僕のとっておきのオリジナル曲を弾いて差し上げる!ジャン!!ジャカジャン!!
「向こう……行こうか。」
「……うん。」
ちょ、お前ら。待てよ。
良い曲だって、ほら。
え?ちょっ……。まだ、まだまだ、俺こんなもんじゃないって!!
俺、もっと出来る子だって!!
ねぇ!きいてよ!俺の話きいてよ!
こうしてできた曲がタイガー&ドラゴンである。
http://jp.youtube.com/watch?v=3OeIyKoRGoM
次のお題「俺の話を聞け」

