海 /
ムロヤ
お題「海」
「毛」が何の為に生えているのかというと、それは体の重要な箇所を保護するためにあるわけで、例えば髪の毛は頭部を、眉毛は目を、鼻毛は鼻孔に異物が侵入するのを防ぐのに一役買っているのだ。
また、ヒゲを剃れば剃るほど濃くなるように、外部から刺激を受ける事によってその機能は一層強化される「毛」のシステムのなんとすばらしい事か。
高校3年生になって4、5ヶ月が経ち、周りの受験生とやらが予備校でクーラーの風を受けて顔面蒼白になりながらお勉強をしている間に、僕とその友達は電車を乗り継ぎ乗り継ぎ海に着き、乾いた太陽に日干しされている所であった。僕達の大義は「最後の夏の思い出を作る」である。
1泊2日の小旅行の昼は、ほとんどの学生がするように海でナンパまがいの事をする計画だったのだが8月下旬という事と特に観光地でも無い小さな砂浜だった事もあって、その日の砂浜は僕らの貸し切り、プラベートビーチになってしまい、実の無い昼を過ごしたのち1泊3000円の古宿に戻り夕食を済ませて、僕らは夜の砂浜に繰り出した。
花火を撃ち合って服が焦げてコンビニで大漁に買い込んだはずの花火がいつの間にか線香花火とロケット花火だけになり、僕らは「今年もなんも無かったな」と慰めあった。その場には僕も合わせて4人居たが、一番落ち込んでうな垂れているK君のみが童貞であるという事を周りは知っていたし、またK君は僕らの事をそういった仲間だと思い込んでいた為に、何とも言えない奇妙な空気が作り出されていた。この小旅行こそ、K君がために企画されたものだったのだ。
「女も捕まらん、海も面白くない、みやげ話もなしには帰れんわ」と立ち上がったのは、M君であった。
「線香花火を一番最初に落とした奴は、罰ゲームな。一番最後まで残ってた奴の言う事を一つ聞く。いいな」
かくして、線香花火戦争が勃発した。始めのうちはバケツの周りを囲んで屈んでいたのだが中々落ちない花火にしびれを切らして互いの体を押し合いへし合い、相手の火種を落とそうと躍起になったのだった。
そうして一番始めに落ちたのは、今回の主役になるはずだったK君だった。
もちろん最後まで残っていたのはM君だった(というか最初の脱落者が出ると同時にM君以外は投げた)。
「よし、じゃぁK。下脱げ。ちげーよ全部だよ。そんでうつぶせに寝ろ」
僕ともう一人の友人(I君としよう)は顔を見合わせて驚いた。いったいMは何をしようとしているのか、全く見当もつかなかった。この場を通行人に見つかったら確実に勘違いされる。
「ちょっと、むろや、I、こいつの手押さえとけ。」
僕とI君は言われた通りに動いたがドン引きだった。
「K、残念だったな。童貞の前にロストバージンする羽目になるとはな」
M君は余ったロケット花火とライターを持って来ると嫌がるK君の尻を無理矢理押さえつけて花火の棒の部分を無理矢理尻間にねじ込んで「ロ"ケツ"ットウ花火!」と叫ぶと導火線に火を点した。
K君は何が泡を食ったような顔をしていたが、シューシュー音を立てる導火線の音と尻の異物感から状況を察したのか、「やめて!とって!抜いて!」と悲痛な叫び声をあげ始めた。「K!力を抜け!抜かんと締まって飛ばん!」
僕が通行人だったら辞書の「嬲る」と言う漢字を男男男に書き換えたのち、直ちに110番するだろう。
Kの尻はくぼみが出来るほどに引き締められており、くわえ込まれたロケット花火は身を震わせて発射に備えていた。
あついっ!あついっ!!うわああああああああああああああああ!!!という絶叫と共にロケット花火の導火線が徐々に短くなり、一刻の間を置いてシュッ!っと本体の火薬が反応した音がした。しかし海に向けて消えるはずの黒色火薬の安い光線が見られない。見れば、ロケット花火はこわばったK君の尻の間に挟まったまま火を噴き上げ続けていた。
炸裂音は、僕らのすぐそばで起こり、花火の閃光はK君の尻のシルエットを暗闇に描き出したのだった。
痛い痛いと尻を押さえて飛び跳ねながら泣くK君を尻目に僕らは大笑いし、今回の旅行は幕を閉じたのだった。
後日聞く所によれば、K君の尻はこれでもかというほどに濃いケツ毛で埋め尽くされる事となり、今春出来た初めての彼女にそのケツ毛を見られ、めでたくその付き合いを解消されたそうである。
次のお題「毛」